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RWC⑤ アイルランドの叫び1

 日本が戦ったアイルランドは、英国連合の1地域である北アイルランドと、アイルランド共和国との混成チームで出場しています。ラグビー協会の成立は1875年。アイルランドが南北に分かれたのちも、ラグビーに限っては混成チームです。アンセム「アイルランズコール」は1995年のワールドカップを機に作られました。一民族/one ethnic groupが国境をまたいでチームを編成し、肩を組んで「アイルランズコール」(=アイルランドの叫び)を歌う姿は、それだけで静かな気持ちではいられません。 


 しばらく暴走します。


 アイルランドの歴史は苛烈です。

 紀元前、ケルト系民族が島に渡来。ケルト系は今、アイルランド・スコットランド・ウェールズ、それにフランスのブルターニュ地域などで暮らしていますが、バスクなどとともにゲルマンに先行するヨーロッパの民族とされます。固有のドルイド教は自然崇拝の多神教。

 5世紀、聖パトリックによりキリスト教がもたらされ、日本の源平の合戦のころイングランドによる植民地化が始まります。イングランドで、ローマ教皇と袂を分かってイギリス国教会が成立するとカトリックは目の敵にされ、アイルランドではカトリックが教師・医師・弁護士・警官・軍人などの公職から排除され、婚姻制限がもうけられ、さらにいわば「カトリック税」を課されます。抑圧と貧窮の島! のち、国教会と対立するピューリタン(プロテスタント)による清教徒革命の際は、クロムウェルがアイルランド侵攻を行い、多くの人が虐殺され、あるいは亡命を余儀なくされます。ピューリファイ(浄化)! 

 19世紀、「ジャガイモ飢饉」により人口と文化は壊滅的な打撃を受けたといいます。苛酷な状況にあってアイルランド人を支えていたのは、精神にあってはカトリック、物質にあってはジャガイモでした。いわば神にまで見放された島。多くのアイルランド人はアメリカ大陸に移住。

 第一次世界大戦終結のころはじまった独立戦争を経て、アイルランド自由国が成立します(1949年)。北部アイルランドは、イングランドからの移民(プロテスタント)が多く、経済の安定を求めてイギリス統治下に残留することを選択。1990年代、ナショナリスト(過激派がIRA)とユニオニストの抗争に、愛・英政府が加わった北アイルランド紛争は記憶に新しいところです。英国のEU離脱問題が北アイルランドに波及するおそれがあり、気配は穏やかではありません。

 現在、共和国・北部あわせて人口は約500万人。一方で、世界に10倍をこえる5000万人(8000万人とも)、とりわけアメリカ合衆国には3000万人のアイリッシュ系移民がいると言われ、世界有数の移民供給地域です。理由のないわけがありません。アメリカに移住したアイリッシュは、いわゆるWASP(ワスプ、イギリス系白人プロテスタント)に敵視されつつアイリッシュ・カトリックを形成し、2人の合衆国大統領を輩出します。J.F.ケネディとR.W.レーガンです。